矯正中に起こりうる7つのリスク
矯正中は虫歯や歯肉炎になりやすい
歯列矯正には「ワイヤー矯正」と「マウスピース矯正」があります。
どちらの方法であっても共通して言えるのは、気をつけていないと歯垢(プラーク)が溜まりやすいという点です。
ワイヤー矯正をしていると、どうしても歯磨きがしづらいため、菌が残りやすく虫歯になりやすい点は否めません。
またマウスピース矯正の場合でも、歯は常にマウスピースによってカバーされている状態なので、唾液が還流しないことから虫歯になりやすいと言えます。
知覚過敏になる
矯正中の患者さんが一番おっしゃるのが、痛みについてです。特に、知覚過敏にお悩みの方が多いですが、これにはいろいろな原因があります。
矯正をしていない場合でも、知覚過敏になる方はたくさんいらっしゃいます。この場合の原因は、歯磨きの際に歯磨き粉をたっぷりつけて表面をゴシゴシこすることによって、歯と歯茎の際の部分が露出してきてしまいます。歯磨き粉は、要はクレンザーや研磨剤のようなものなので、とても強力です。つけすぎることによって、歯茎や歯の表面がえぐれてきてしまいます。これを、「楔上欠損」と言います。
また、歯肉炎も知覚過敏の原因として多くあります。
ほかにも、歯と歯が強くぶつかることで歯に負担がかかり、知覚過敏になることもよくあります。ガムを同じ歯で30分以上噛んでいるときと同じような状態です。
矯正中に起きる知覚過敏は、ほとんどがこの「歯に対するストレス」から誘発されるものです。歯を動かす過程で、部分的に強く上下でぶつかることで、歯がストレスを感じて痛みが出てしまうのです。
歯根吸収が起きる
「歯根吸収」とは、歯の根っこが短くなってしまうことを言います。
歯列矯正は、人間の新陳代謝機能を利用して歯を移動させるものです。適切な力をかけることが何より大切なので、力が弱すぎては動かず、強すぎると歯根吸収の原因となります。
歯は顎の骨の中に埋まっています。埋まっている歯根の周りの骨は、歯に力がかかると柔らかくなり、吸収され、歯と顎の隙間には新しい骨が新生されます。この繰り返しをしながら、歯列を整えていくのが歯列矯正の仕組みです。
専門的な言葉で言いますと、引っ張られた側の骨には「破骨細胞
(osteoclasts)」が出てきて顎の骨が溶け、その一方で、歯と顎の隙間には「骨芽細胞(osteoblast)」が生まれます。その両方がバランスよく出てくることによって、歯列は正常に動くのです。
ところが矯正の力が強すぎると、「破骨細胞」と「骨芽細胞」が出現する前に、歯根が溶けて動いてしまいます。本来であれば顎の骨が溶けるところ、影響を受けやすい歯根が短くなったり細くなったりして無理に調整してしまうのです。「破骨細胞」が出現するスピードを、矯正力が通り越してしまっている状態です。
歯根が短くなるということは、歯が弱くなるということです。つまり、歯が抜けやすくなるため要注意です。
歯肉退縮が起こる
歯茎が下がる・痩せる症状を「歯肉退縮」と言います。加齢や誤った歯磨きの仕方などによって、矯正をしていない歯にも起きやすい症状です。
矯正をしている場合は、主に噛み合わせが原因となります。
特に前歯に著しく見られる症状ですが、歯が重なって生えている部分は、歯根を支えている顎の骨で歯槽膿漏が進行して、ある程度下がってしまっていることがほとんどです。骨レベルが下がっているのにも関わらず、歯が重なっていることによって、ブラッシングがよくできるため、カムフラージュされています。
矯正治療で歯列をきちんと並べてあげることで、歯ぐきが健康になって引き締まってきます。しかし、歯根を支えている顎の骨自体は元々下がっているので、歯の根元の部分に隙間が開いてしまいます。これを「鼓形空隙」と言います。
後戻り
後戻りは、気をつけていないと起こりやすい症状です。
前途したように、歯列矯正は人間の新陳代謝機能を利用した施術です。そのため、矯正装置を撤去した後、また矯正前の形に戻ろうとする力が自ずと働いてきます。
基本的には、装置を外してから最初の1年間は、1日20時間以上「保定装置(リテーナー)」を使っていただきたいところです。理想的なのは、ご飯を食べている時以外のすべての時間、リテーナーを装着し続けることです。難しい場合でも、最低1日20時間以上は装着するようにお願いしています。
歯並びは生き物なので、皮膚などの経年的な変化と一緒で常に変化したがっています。きちんと良い状態を保つためには、一生お使いいただくのが一番です。もちろん、1日20時間の装着を一生続けるわけではありません。様子を見ながら徐々につける時間を減らしていき、最終的には夜間寝る時だけ装着するのが良いでしょう。ご自身の歯を日々確認して、それで後戻りしていないと思う方は、夜間就寝中の装着を毎日から1日おきや2日おきに変えていくことをおすすめします。
―リテーナーの種類―
現在、リテーナーもいろいろな種類が出ています。
当院で一般的に使用するのは、透明のマウスピース型です。アクリル樹脂やラバー系の材料でできているため目立つことがなく、日中装着していても大きなストレスにはなりません。装着したままでお食事をすると、擦り切れて穴が開いてしまうため、その時間だけは外します。お食事の時間以外にずっと装着することで、だいたい1日20時間以上になる計算です。
ワイヤータイプのリテーナーは、表側からワイヤーで歯を固定し、裏側にはプラスチックのプレートをあてがって歯列を抑える構造になっています。歯列全体をワイヤーで包み込むようにして、全体的な後戻りを防ぐ「ベッグタイプ」と、後戻りしやすい前歯数本のみをワイヤーで固定する「ホーレータイプ」の2種類があります。しかし、矯正終了後にリテーナーの太いワイヤーが見えてしまっては意味がありませんので、当院では「ベッグタイプ」や「ホーレータイプ」は使っておりません。
一番保定力が強いのは、固定式のワイヤー・リテーナーです。「フィックスタイプ」と言い、細いワイヤーを前歯6本の裏側に接着剤で張り付けるというものです。
金属アレルギーの場合も注意が必要
金属アレルギーの方は、ワイヤー矯正はできませんので、マウスピース矯正をおすすめしています。ご自分が金属アレルギーであるとは知らずにワイヤー矯正をしてしまい、その結果湿疹が出たり、アレルギー反応が出てしまうこともあります。そのため、不安材料がある方は、事前にパッチテストをしていただき、その結果を確認してから施術しています。
歯の変色
ごくごく稀なケースですが、歯の変色が起こるケースがあります。
歯列矯正は、歯に力をかけて動かし、歯並びを整えていく作業なので、歯は常にわずかにぐらついている状態にあります。そのため、指で強く押したり、揺さぶると動いてしまいます。その状態で強くものを噛めば、場合によっては大きく揺れてしまうことがあります。あるいは寝ている間に強く歯ぎしりをして、揺れてしまうこともあります。そうすると、歯根の先端部分の神経が切れて、内出血を起こすことがあるのです。
内出血が起きてしまうと、自然に治まるまでに数年かかります。内出血の場合は、歯の表面に白くマニキュアを塗ってコーティングして目立たなくします。自然に治るまで経過を見ながら待つしかありませんが、これは本当に稀なケースです。当院に新しくお越しになる患者さんは、年間500名程度いらっしゃいますが、実際に起こるのはそのうちの1人くらいです。確率で言うと1/500くらいです。さらにそれぞれの方が20本くらいに装置を付けているため、歯の本数で考えれば1/10,000程度のリスクです。
注意すべき点は、絶対に強く噛まない、という点だけです。くいしばりさえしなければ、歯の変色は起こりませんので、ご安心ください。