抜歯して矯正と言われたら?抜歯が必要な理由や回避方法を徹底解説!
歯並びの乱れや歪んだ噛み合わせを解消し、健康的で美しい口元を手に入れるために行われる歯列矯正ですが、歯並びの状態によっては抜歯が必要なことをご存じでしょうか?
「抜歯は怖いし、健康な歯を抜くなんてもったいない」
「歯並びを良くするだけなのに、なぜ歯を抜く必要があるの?」
「抜歯は絶対に避けられないの?」
など、抜歯が本当に必要なのか疑問に思ったり、歯を抜くことについて恐怖や不安を感じる方も多いのではないでしょうか。
抜歯が必要かどうかは「歯を動かす量」に関係しています。
このコラムでは、歯列矯正においてなぜ抜歯が必要なのか、どんなときに抜歯が必要なのかを徹底的に解説します。
また、歯を失わずに治療する方法についてもご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
歯列矯正で抜歯が必要なのはなぜ?
歯列矯正は、一般的にワイヤー装置やマウスピース装置などの矯正装置で歯を移動させ、歯並びや噛み合わせを整える治療です。歯を移動させるためには、その分のスペースが必要です。
例えば、通勤ラッシュの満員電車を想像してみてください。人がぎゅうぎゅうに詰まっている中を移動しようとしても、スペースがないので思うように動くことができませんよね。
ターミナル駅に到着して車内の人が減ると、やっと少し移動できると思います。
歯並びもこれと一緒です。ぎゅうぎゅうに詰まってデコボコに生えている歯を、抜歯で間引きしスペースを確保することで、残った歯を適切な位置に動かすことが可能になるのです。
抜歯の必要性は歯並びの状態によって変わる
「それでは、矯正は絶対に抜歯が必要なの?」と思われた方、実はそうではありません。
歯並びには個人差があり、抜歯が必要かどうかはそれぞれの状態によって変わります。
一般的に抜歯が必要と言われている歯並びは、下記の2つです。
・歯並びのデコボコが重度のケース
歯が大きく重なり合ってデコボコに生えている場合、歯の移動量が大きくなり、それに伴って必要なスペースも増えます。歯を正しい位置にきれいに並べるため、抜歯が検討されます。
・上下の歯並びが大きく突き出しているケース
上下の歯並びのどちらか、あるいは両方が大きく前に突き出している場合、口元やあごの突出感を解消するため、歯を全体的に後ろに移動させる治療を行います。
特に、前歯を後ろに下げるときに大きなスペースが必要になるため、抜歯が実施される場合があります。
一方で、もともと隙間がある「すきっ歯」や、歯並びの乱れが軽度のケース、低年齢で歯列矯正を開始するケースでは、抜歯が必要ないことも多くあります。まずは、歯科医院で自分の歯並びの状態をしっかりと確認してみましょう。
抜歯せずに無理やり歯を動かすとどうなる?
抜歯は心や体の負担が大きいため、必要性を理解していてもなかなか受け入れ難い問題です。
「抜歯が必要と言われたけど、できるなら歯を抜かずに矯正したい……」と思う方も多いでしょう。
しかし、先ほどの満員電車を思い出してください。誰も降りない車内で無理やり移動すると、周りの人を強く押してしまうことにつながります。
これと同じようなことが、歯列矯正でも起こります。ここからは、本来は抜歯するべきケースであるにもかかわらず、非抜歯で強引に歯列矯正を実施した場合のデメリットについて見ていきましょう。
1.歯の周りの組織に負担がかかる
歯を無理やり動かすと、歯ぐきやあごの骨が強く押されて負担がかかります。その結果、歯ぐきが下がって歯が長く見えたり、歯の根元がしみるなどのトラブルが生じる可能性があります。
2.歯並びが前に突き出す
狭いスペースに歯を無理やり並べると、歯のデコボコは改善されるものの前に突き出したような歯並びになり、口元の突出が引き起こされる場合があります。
見た目の問題だけでなく、唇が閉じにくくなったり、食事がしにくくなるといった影響も及ぼします。
3.噛み合わせが悪くなる
抜歯を行わずに矯正をすると、「見た目は改善されたけれど、しっかり噛めない」という不具合を招くことがあります。
不適切な噛み合わせは、歯やあごの関節に負担をかけ、将来的に痛みや歯の喪失の原因となるだけでなく、食べ物をしっかり噛めないことで消化不良を起こし、全身の栄養状態にも影響を及ぼす恐れがあります。
4.後戻りのリスクが高まる
矯正治療後、歯が元の位置に戻ろうとする現象のことを「後戻り」といいます。歯を無理に動かすと後戻りする力が強く働き、せっかくきれいになった歯並びが再び乱れる可能性が高まります。
抜歯をせずに矯正治療を行う方法
歯列矯正の方法は日々進化しており、最近では抜歯以外でスペースを確保する方法も増えています。
代表的な方法を以下でご紹介しますので、ぜひ治療の参考にしてみてくださいね。
1.「遠心移動(えんしんいどう)」による奥歯の位置調整
歯は、あごの骨である「歯槽骨(しそうこつ)」に支えられており、この骨の範囲内であれば歯を移動させることができます。
遠心移動では、奥歯を順番に歯槽骨の後方へ移動させることでスペースを作り出し、それを利用して歯並びを整えます。
ただし、1番奥に親知らずが生えている場合、遠心移動の邪魔になるため抜歯が必要な場合があります。また、奥歯を移動できる距離には限界があるので、より多くのスペースを確保する必要がある場合は適用できないことがあります。
2.歯の側面を削る「ディスキング(IPR)」
ディスキングは、歯の表面の硬い組織「エナメル質」わずかに削ってスペースを作り出す方法です。通常、エナメル質は約2〜3mmの厚さがあり、ディスキングで削る量は1か所あたり最大で0.25mmまでと非常にわずかです。そのため、歯の内部組織や神経が露出する心配はありません。
IPRによって確保できるスペースは抜歯と比較するとあまり多くないため、わずかな歯のねじれやズレなど、歯並びの乱れが軽度な場合に適用されます。
また、IPRのデメリットとして、歯が刺激されることで一時的に歯がしみる「知覚過敏」が生じることがあります。
3.歯並びやあごの骨の幅を広げる治療
人間の歯はアーチのような形を描いて並んでいます。このアーチを外側に広げることで、歯と歯の間にスペースを作り出す方法があります。
歯並びのアーチをどの程度広げられるかは個人のあごの大きさによって異なるため、歯の動きをしっかりシミュレーションしてから行うことが重要です。
また、成長途中の子どもに対して行われる治療の1つに、歯を支えているあごの骨自体を広げる「顎顔面矯正(がくがんめんきょうせい)」という方法があります。
この治療では、特殊な装置を使用してあごの骨の成長を促し、将来的に生え変わる永久歯がきれいに配置されるように誘導します。
歯の細かい位置や角度を調整するには、追加の矯正が必要な場合もありますが、学童期に顎顔面矯正を行っておくことで、抜歯を回避できる可能性が大幅に高まります。
おわりに
今回は、歯列矯正において抜歯が必要な理由や、抜歯を回避する方法について解説しました。抱えていた疑問や不安を少しでも解消できたでしょうか?
抜歯に抵抗を覚える方も多くいらっしゃると思いますが、歯の健康と美しさを保つために必要なプロセスであることを理解し、自分に合った治療方法を選ぶことが大切です。
また、歯科医師と相談し治療計画を工夫することで抜歯を回避できる可能性もあります。まずは自分の気持ちをしっかりと歯科医師に伝え、納得できる治療方法を模索してみてくださいね。