矯正で見た目だけ改善するのは失敗?噛み合わせが重要な理由とは?
歯列矯正と聞くと、歯をきれいに並べて見た目を改善することが治療の目的と思う方が多いのではないでしょうか。実際、前歯が飛び出ている、受け口、歯並びがガタガタといった見た目の悪さを気にして矯正治療を受けられる方は多く、見た目(審美面)を改善させることは大切です。
しかし、審美面のみを追求して歯並びを改善するだけでは、場合によっては「治療前より噛みにくくなった」、「顎が痛むようになった」といった不具合が生じることがあります。そうならないためには、噛み合わせを改善させることも非常に重要です。
そこで今回は、歯列矯正で見た目だけを改善するのは失敗なのか、噛み合わせがなぜ重要なのか解説します。
噛み合わせとは?
まず噛み合わせについて簡単にお話します。噛み合わせとは、上下の歯がカチッと噛んだ時の状態をいいます。
歯には物を噛み砕くだけでなく、飲み込む、発音する、表情をつくる、身体のバランスをとるなどといった役割があります。
そのため、上下の歯が左右均等に当たり、噛み合う力のバランスがとれており、顎関節、口周りの筋肉、歯、骨に影響が出にくいことが「良い噛み合わせ」となります。
反対に、上下の歯の接触具合が悪くバランスがとれていないと、顎関節、口周りの筋肉、歯、骨のどこかに影響が出やすいため「悪い噛み合わせ」と言えます。
噛み合わせが悪い歯並びとは
前歯が出ている、ガタガタに歯が並んでいる、すきっ歯などさまざまな歯並びがありますが、噛み合わせが悪い歯並びはご存知ですか?
大きく分けて6つあります。
- 上顎前突
- 下顎前突
- 叢生(そうせい)
- 空隙歯列(くうげきしれつ)
- 過蓋咬合(かがいこうごう)
- 開咬(かいこう)
これらをまとめて「不正咬合」と呼び、当てはまる方は見た目だけでなく噛み合わせも悪い傾向にあります。
ご自身では問題なく噛めていると思っていても、実は一部分でしか噛めていないということもあるので、心配な方は一度歯科医院で噛み合わせのチェックをしてもらいましょう。
噛み合わせが悪いとどんな影響がある?
噛み合わせが悪いと、食べ物を噛みにくい以外にどのような影響があるのか見ていきましょう。
顎関節症になりやすい
奥歯が正しく噛まない噛み合わせの場合、顎関節に異常な負担がかかってしまいます。そうすると顎関節が歪み、動きが悪くなることもあります。
歪んだ状態が続くと、顎関節周りの筋肉に過度な緊張や疲労が生じ、痛みや不快感、音が鳴る、口が開かないといった「顎関節症」に発展する可能性があります。また、顎関節の近くには、脳と全身をつなぐ神経が通っているため、頭痛や肩こりといった全身症状につながることもあります。
そのため慢性的に頭痛がある方は、噛み合わせが悪いことが頭痛の原因かもしれません。
発音が不明瞭になる
前歯に隙間がある、奥歯で噛んだ時に上下の前歯に隙間がある噛み合わせの場合、発音がうまくできないことがあります。
特に「サ行」「タ行」の発音が正しくできず、周囲から聞き取りにくいと言われる可能性があります。
これは、隙間から息が漏れたり、前歯にある隙間に舌が出てきてしまうことで、舌足らず特有の発音になることが多いためです。舌足らずの発音は、舌のトレーニングをすることである程度改善される場合もありますが、かなりの努力が必要です。
胃腸に負担がかかる
噛み合わせが悪いと食べ物を細かく噛み砕けないことが多いです。そうなると、胃腸での消化・分解に時間がかかるだけでなく、内臓の負担が大きくなります。
また、よく噛むことで唾液は多く分泌されますが、うまく噛むことができないと唾液の分泌は低下します。唾液の成分には食べ物の消化を助ける酵素が含まれているため、唾液の分泌が少ない場合は消化がうまくできなくなります。
そのため、噛み合わせが悪い方は胃が重たい感じかしたり、何となく胃腸の調子が悪い、消化不良が頻繁に起こるといった可能性があります。
口の中に傷ができやすい
前歯だけでなく奥歯が外側に飛び出て生えていたり内側に傾いていると、摩擦や圧迫により粘膜などを傷つけやすいです。そのため、口内炎ができやすい、粘膜をよく噛むといったことが多く、常に刺激を受けることで癌化してしまうこともあります。
また、飛び出ていたり傾いている歯があると、転んだり、相手や物とぶつかる、事故などの外部から強い衝撃で、「歯が折れる」「口の中を切る」といった怪我につながる確率が高くなります。
噛み合わせが悪いと姿勢に影響が出る!?
噛み合わせが悪いと出る影響を先述しましたが、噛み合わせと姿勢には深い関係があるため、姿勢にも影響が出ます。姿勢が悪いと、肩こりや腰痛、肥満、便秘といった症状にも影響が及ぶことがあります。
一見、噛み合わせと姿勢は関係がないものと思われるかもしれません。しかし、噛み合わせが良いと正しい姿勢を維持しやすいといった密接な関係があります。
正しい姿勢とは、背筋を伸ばし、顎を少し引き、首が頭をしっかりと支えている状態のことです。この姿勢を保てていると、腹筋や背筋、噛む時に使う筋肉(咀嚼筋:そしゃくきん)が正しく働いて、顔だけでなく身体のバランスも整います。
逆に、イスに座る時に沈み込むようにしたり、足を組んだり、立っている時も片足に重心を置いたり、片方ばかりで荷物を持っていると姿勢が崩れていき、次第に噛み合わせにずれが生じてしまいます。
猫背や反り腰、頬杖をつく、片側ばかりを下にして寝るなども、噛み合わせが悪くなる原因と言われています。
また、姿勢が悪いまま食事をしようとしても、しっかりと噛むことができません。それだけでなく、悪い姿勢のままでいると、顔そのものが少しずつ変形してしまう可能性があります。
噛み合わせは全身に大きな影響を及ぼすため、噛み合わせが悪いと体がバランスをとろうとして歪み、結果として姿勢が悪くなることがあります。
特に子どもの成長期は歯並びや顎の発育が行われる重要な時期であるため、この段階で噛み合わせが悪い、または姿勢が悪いと双方に大きな影響を与えかねません。
そのため、噛み合わせと姿勢が両方悪い方は、姿勢(とくに頭の位置)が良くならない限り、歯列矯正をしてもなかなかいい結果が出なかったり、あっという間に後戻りする可能性があります。その場合、根本原因である姿勢を矯正していくことが大事になってきます。
また、姿勢を矯正して噛み合わせをよくすることで、自己治癒力・自己免疫力の向上につながるとも言われています。
このように、噛み合わせと姿勢の関係は密接で、全身の健康を維持するために非常に大切です。
まとめ
今回は、歯列矯正で見た目だけを改善するのは失敗なのか、噛み合わせの重要性について解説しました。
一部の歯だけが乱れていて噛み合わせが問題ない場合は、見た目だけの改善でも良いでしょう。
しかし、噛み合わせが悪い状態にも関わらず、見た目だけを良くするのはかえって悪い結果になり、矯正して失敗だったと思うことになるかもしれません。
噛み合わせの悪さは身体全体に影響を与えてしまう可能性があるため、歯列矯正で噛み合わせを改善することは、全身にとって極めて重要になります。歯列矯正が終わってから10年、20年と経っても美しく健康的な状態を保つためにも、見た目だけでなく噛み合わせも含めた包括的な矯正を行える歯科医院で治療を受けることが大切です。
美しい笑顔と健康を保つためにも、歯並びとともに正しい噛み合わせを意識しましょう。